執筆: Jin Fujisaki / 公開: 2026-07-23
デスクワークの合間、ふと自分の手が冷えきっていることに気づく。マグカップを両手で包んでみても、コーヒーが冷めるまでの数分しか続かない。かといって、電気式のハンドウォーマーを充電し忘れていたら、それまでだ。
もし、電子レンジで30秒温めるだけの陶器が、10分から15分もの間じんわりと手を温め続けてくれるとしたら。しかも中身は電池でもジェルでもなく、台所にある小豆だとしたら。
愛知県瀬戸市で瀬戸焼の石膏型づくりを三代にわたって手がけてきた「株式会社エムエムヨシハシ」が生み出した、陶器のハンドウォーマー「TETANPO(テタンポ)」。これは単なる防寒グッズではなく、小豆の重みと陶器の質感で手を止めさせる、小さな一時停止ボタンだ。
| 中身は「小豆50g」。仕組みはただの電子レンジ加熱
TETANPOの仕組み自体は驚くほどシンプルだ。本体は空洞になった陶器で、背中に開いたコルク栓の穴から付属の小豆50gを入れる。電子レンジで温めれば、小豆が蓄熱材となり、陶器全体に熱がゆっくりと伝わる仕組みだ。
加熱時間の目安は500Wなら30秒で約10分、40秒で約15分。600Wなら20秒で約10分、30秒で約15分持続するとされている。加熱直後の陶器はしっかり熱くなるため、素手で触れる際はやけどに注意したい。小豆は繰り返し加熱して使えるので、使い捨てのカイロのように毎回買い足す必要がない。
| なぜ「頭」ではなく「背中」に穴があるのか
空洞の陶磁器を作る際、通常は先端や底に穴を開ける。窯元で成形するときに、型の中に残った余分な土(泥漿)を抜くためだ。石膏型職人の吉橋賢一氏によれば、TETANPOの試作段階でも、小豆を入れる穴は当初、鳥の頭頂部に開けられていたという。
しかし、頭にコルクが乗っていると見た目のかわいさが損なわれる。「やはり、頭は丸いほうがかわいいよね」という結論に至り、デザイナーと吉橋氏は先端でも底でもない背中に穴を移すという、陶磁器づくりでは前例のない設計変更に踏み切った。石膏型は、泥漿を流し込んだあと石膏自身が水分を吸収することで内側から固まっていく。穴の位置がずれれば、この工程そのものが成立しない。デザイナー、石膏型職人、窯元の3者が試行錯誤を重ね、約2年をかけてこの丸みのあるフォルムを実現した。
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| 手のひらに収まる重さと温度が、作業の手を止める
TETANPO本体のサイズは陶器部が幅67mm×長さ120mm×奥行67mm、重量は乾燥時で約115g(小豆別)。両手で包み込むと、指先ではなく手のひら全体に体重の乗った小豆の重みが伝わってくる。この「ただ重い」という感覚が、作業中にスマホやマウスへ伸びかけていた手を、一度そこで止まらせる。
温めた瞬間には小豆のほんのりとした香りも立ちのぼる。視覚的な派手さはないが、素焼きのマットな質感、手に収まるサイズ、小豆の匂いという地味な要素が積み重なって、握っている間だけ意識が手元に向く。開発担当者は「リラックスしたい時、何もせずにぼーっとしたいときに使ってもらえたらいい」とコメントしている。
| 文鳥をモチーフにした、丸みへのこだわり
TETANPOの第1弾は、ふっくらとした文鳥の姿をしている。デザイナー自身が鳥好きでインコを飼っており、その"鳥つながり"から文鳥をモチーフに選んだという経緯がある。鳥がリラックスして首をすくめたときの、大福のような丸まった姿を意識してデザインされた。
頬のふくらみや体の丸みは、試作を繰り返しながら調整された部分だ。鳥好きが見ても実際の鳥からかけ離れておらず、かといってリアルすぎない絶妙なバランスを狙ったという。素焼きのまま釉薬をかけていない表面は、マットでさらりとした質感に仕上がっている。2025年には第2弾として、丸まったハリネズミ型のTETANPOも登場した。
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| 価格とおすすめしたい人
価格は販売サイトによって幅があり、税込3,960円〜4,400円程度(2026年7月時点で確認できる複数の直販サイトでは4,400円表示)。小豆50g・コルク栓・巾着袋が付属する。販売は不定期のオンライン予約が中心で、瀬戸市内の一部雑貨店でも取り扱いがあり、告知から短時間で完売することも珍しくない。
TETANPOは、こんな人におすすめだ。
- デスクワーク中に手先が冷えやすい人
- 電気を使わず、レンジで手軽に温もりを得たい人
- カイロのような使い捨てグッズを増やしたくない人
- 作業の合間に、意識して手を止める習慣を作りたい人
| まとめ:30秒温めて、15分だけ手を止める。
TETANPOが解決するのは、手の冷えそのものよりも「つい作業を続けてしまう」という癖かもしれない。電子レンジで30秒。あとは陶器と小豆が、勝手に15分の区切りを作ってくれる。
次に手の冷たさに気づいたら、電源を探す前に、電子レンジのタイマーを30秒に合わせてみてほしい。


