執筆: Jin Fujisaki / 公開: 2026-02-11
雨の日、あなたはどんなアウターを着ますか? 軽くて便利なナイロンや、高機能なゴアテックスを選ぶのが現代の常識です。 しかし、化学繊維が発明される遥か昔、イギリスの港湾労働者や羊飼いたちは、もっと原始的で、もっとタフな方法で雨を凌いでいました。
それが、綿(コットン)の生地にオイルを染み込ませて防水する「ワックスドコットン」です。 1894年創業のBarbour(バブアー)は、この古典的な素材を使い続け、英国王室御用達(ロイヤルワラント)の栄誉まで手にしたブランドです。 重くて、ベタついて、少し匂う。 そんな不便なジャケットが、なぜ世界中の紳士に愛され続けるのでしょうか。
| 乗馬のために生まれた「ビデイル」の機能美

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バブアーにはいくつかの名作がありますが、日本で最も人気なのが乗馬用ジャケットとして開発された「Bedale(ビデイル)」です。 そのデザインの全てには意味があります。
またがった時に裾が邪魔にならないよう、着丈は短めに設計されています。 背中には「サイドベンツ」と呼ばれる切れ込みがあり、ボタンで開閉することで動きやすさを確保。 袖口には風の侵入を防ぐための「リブ」が付いており、雨風の強い日でも体温を逃しません。 さらに、胸の高い位置にある「ハンドウォーマーポケット」に手を突っ込めば、手袋なしでも暖を取ることができます。 これらはファッションではなく、生きるための機能なのです。
| 「洗えない」のではない。「洗ってはいけない」
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バブアー最大の特徴であり、最大のハードル。 それは「洗濯できない」ことです。 もし洗濯機に入れて洗剤で洗ってしまえば、防水のために染み込ませたオイルが抜け落ち、生地は縮み、ただの薄汚れた綿の布になってしまいます。
汚れがついたら、水を含ませたスポンジで優しく拭き取るだけ。 そして、数年に一度、抜けたオイルを補充する「リプルーフ(Re-proof)」という儀式を行います。 専用のワックスを湯煎で溶かし、スポンジで生地に塗り込み、ドライヤーで馴染ませる。 手はベタベタになりますが、この作業こそが「服を育てている」という強烈な実感を与えてくれます。
| 新品は恥ずかしい。チョークマークの美学
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買ったばかりのバブアーは、オイルがたっぷりと乗っており、光沢があって少し気恥ずかしいものです。 しかし、着込んでいくうちにオイルが馴染み、摩擦が多い部分は色が抜け、シワの部分には「チョークマーク」と呼ばれる白い線が入ります。
これがバブアーの「味」です。 新品よりも、10年着てクタクタになったバブアーの方が圧倒的にカッコいい。 イギリスでは、新品のバブアーを着ていると「まだひよっこだな」と笑われる、なんて冗談があるほどです。 自分の体型に合わせてシワが刻まれたジャケットは、まさに第二の皮膚です。
| スーツの上から羽織れる、唯一のアウトドアウェア
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本来は作業着であるはずのバブアーですが、不思議とスーツスタイルにも抜群に合います。 むしろ、イタリアの洒落者たちは、あえて高級なスーツの上から、泥臭いバブアーを羽織ることを好みます。
「ドレス(正装)」と「ワーク(作業着)」の融合。 このギャップが、大人の余裕を醸し出します。 もちろん、ジーンズにTシャツというラフな格好にも合います。 平日も休日も、雨の日も晴れの日も。 玄関に掛けてあるこれを羽織れば、どこへでも行ける相棒になります。
| まとめ:不便さを愛する、大人の贅沢
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価格は50,000円〜60,000円程度。 安くはありませんが、メンテナンスさえすれば一生着られます。 「クローゼットの他の服にオイルが移らないか心配」「満員電車で周りに迷惑じゃないか」。 そんな心配がある方には、ノンオイル(オイルが入っていない)モデルも販売されています。
しかし、あえて言いたい。 その不便さも含めて愛するのが、バブアーという文化です。 手間がかかる子ほど可愛い。 このジャケットは、あなたに「モノを大切にする」という意味を教えてくれるはずです。


