執筆: Jin Fujisaki / 公開: 2026-02-13
お洒落なカフェに入って「お冷(水)」が出てきた時、あるいはパリのビストロで「ワイン」を頼んだ時。 その手元にあるのは、ほとんどの場合、このグラスではないでしょうか。 側面がカクカクと面取りされた、少し厚手のガラスコップ。
1954年にフランスで生まれた「Duralex(デュラレックス)」の「Picardie(ピカルディ)」です。 なぜ、世界中の飲食店がこぞってこれを使うのか。 デザインが良いから? 安いから? 最大の理由はもっと実務的です。 それは、「とにかく割れないから」です。
| 「全面物理強化ガラス」という魔法

image ハンズ
ピカルディは、ただのガラスではありません。 製造過程でガラスを約700℃まで熱し、一気に急冷することで強度を高めた「全面物理強化ガラス」です。 その強度は、通常のガラスの約2.5倍と言われています。
うっかりテーブルからフローリングの床に落としてしまっても、高い確率で「カコーン!」と軽快な音を立てて弾みます。 まるでスーパーボールのようです。 「ガラス=繊細で壊れやすい」という常識を、物理的な強さでねじ伏せる。 このタフさがあるからこそ、忙しい厨房で手荒に扱われても生き残れるのです。
| 熱湯も、電子レンジも、食洗機もドンと来い
image Yahoo!
物理的な衝撃だけでなく、温度変化(ヒートショック)にも滅法強いのが特徴です。 氷をたっぷり入れたアイスコーヒーはもちろん、沸騰したお湯を注いでホットティーを作ることも可能です。 耐熱温度差は約120℃。
さらに、電子レンジで冷めた飲み物を温め直すことも、食洗機でガンガン洗うこともできます。 「このグラスは耐熱だっけ?」と迷う必要はありません。 とりあえずピカルディに入れておけば、大抵のことは何とかなります。 日常の雑多なシーンで、気を使わずに使える道具としての信頼感は絶大です。
| 手に吸い付く「ファセット」と、重ねられる機能美
image The Conran Shop
デザインの特徴である側面のカット(ファセット)は、単なる飾りではありません。 光を反射してキラキラと輝く美しさだけでなく、指にフィットして滑り落ちるのを防ぐ役割があります。
また、この形状のおかげで、グラスをいくつも重ねて収納(スタッキング)しても、ガッチリとハマりすぎず、スッと取り出すことができます。 狭いキッチンや棚でも場所を取らない。 その機能美は高く評価され、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のミュージアムショップでも取り扱われています。
| 割れる時は、粉々に「爆発」する安全設計
image キナリノモール
これほど頑丈なピカルディですが、絶対に割れないわけではありません。 そして、その割れ方は非常にドラマチックです。 限界を超えた衝撃が加わると、ガラス全体が「ボンッ」という音と共に、粉々に砕け散ります。
これは「爆発」と表現されることもありますが、実は安全のための設計です。 鋭利な刃物のように割れるのではなく、自動車のフロントガラスのように粒状(ブロック状)に砕けることで、大怪我を防ぐようになっています。 掃除は大変ですが、手を切るリスクが低い。 そこまで計算された「強さ」なのです。
| まとめ:300円で買える永遠のスタンダード
image Duralex
価格は、最も一般的な250mlサイズで1個300円〜400円程度。 100円ショップのグラスよりは高いですが、その耐久性を考えれば実質無料のようなものです。
子供が使う初めてのガラスコップとして。 気取らない毎日のワイングラスとして。 洗面所のうがい用コップとして。 ピカルディは、あらゆる生活の場面に溶け込みます。 「いつものグラス」がある安心感。 たった数百円で手に入る、フランスが生んだ最高の実用品です。


